ティン・パン・アレーのSIDEWAYS

季節が流れていく。音楽が聴こえてくる。

2.“絶頂が生んだ14番目”

tinpan19732007-09-30

「永遠のフルムーン」がブレイク直前の
上り坂のエネルギーに満ちた作品だとしたら、
“ブレイク直前”“ピークの一歩手前”を
月の満ち欠けになぞらえて歌った楽曲がある。


♪次の夜から欠ける満月より
 14番目の月がいちばん好き


荒井由実「14番目の月」、
1976年発売、独身最後の同名アルバム収録。
時代は第一次ユーミン・ブームまっただなか。
“結婚が満月で、その直前”とかさまざまな捉え方を
メディアはしたらしい。


「永遠のフルムーン」作詩・作曲者である吉田美奈子山下達郎も、
この作品にコーラス参加している。
ギターは鈴木茂、キーボードは松任谷正隆
ドラム/ベースは、お馴染み林立夫細野晴臣コンビでなく
マイク・ベアード/リーランド・スカラー
シングル「あの日に帰りたい」、アルバム『YUMING BRAND』の
大ヒットとアルファ・レコードの米国への強いコネクションが、
当時一世を風靡していたリズム・セクションを起用することを
可能にしたのではないだろうか。


「満月の一歩手前の、14番目の月がいちばん好き」
というセリフ自体は、映画『スリランカの愛と別れ』で、
主演・栗原小巻さんのセリフにあったらしい。
歌詞には、「柳に風」「言わぬが花」等ジャポネスクな言葉が登場する。
これは清元の歌詞からの引用らしい(書籍『ルージュの伝言』より)


花札ポップ”と2003年に雑誌『BRIDGE』の渋谷陽一氏インタビューで
ユーミン本人がこの曲を称していたが、
Rock’n Rollに和モノの歌詞という折衷具合が、
タランティーノの映画『キル・ビル』のようだったり、
ブレード・ランナー』の「強力わかもと」看板が映るシーンのようだったりして、
クリエイティブだと思う。


「Rock’n Rollを書こうと思ったんだけれど、私の場合どうしても
 メロディアスになってしまう」
この発言は、1982年のラジオ番組『サタデー・アドベンチャー』から。
ライヴに映える曲調であることもあり、
コンサートのエンディングやアンコールでかなりの度合いで使われている。


個人的に最も印象深い、ライヴの「14番目の月」は、
1996年の夏に突如行われた荒井由実コンサートのアンコール。
(実際には観ていません。ビデオで観ただけです)。
松任谷正隆氏のキーボードで始まったイントロは、
レコード(ディスク)音源を忠実に再現。
ライヴで頻繁に演奏されるとアレンジもどんどん変化していってしまうが、
この日は復活ティン・パン・アレー(ベースは細野さんではなかったが)の
面々によるオリジナルに近いアレンジで、心底楽しめた。


ところで、“ピークの手前がいちばん”って、かなり共感する。
昔、幼稚園から小学校低学年のころ、
土曜日の夜は本当に胸がワクワクしたものだ(週休二日ではなかった)。
日曜日の夕方くらいになると、休日が過ぎて行ってしまうメロウネスに、
胸が締め付けられた。


40歳を過ぎると、休日が人生に変わって…。
いかん。いかん。ピークはまだまだ先。
自分でピークは作らないし、また何度でも作り出せるものなのだ。