ティン・パン・アレーのSIDEWAYS

季節が流れていく。音楽が聴こえてくる。

80年代始め、冬の寒さの向うに夏の煌きを感じた。

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ちょっと意外だが、このアルバムも1月に発売されている。
山下達郎氏『FOR YOU』。たしか高校卒業を控えた寒い日に喫茶店で耳にして、
「ああ、『RIDE ON TIME』の次が出たんだ」と思った覚えがある。
今調べてみたところ、1982年1月21日発売だった。

オープニング曲「SPARKLE」のギターのイントロから、怒涛の達郎ワールド全開!
青山純D、伊藤広規Bといった達郎氏が追い求めていたリズム・セクションとの歳月も
79年以来3年目に入り(紹介したのは吉田美奈子さんらしい)、
この頃はコンサート数も多くまさに絶妙。
2曲目「MUSIC BOOK」は、渡嘉敷祐一D、岡沢章Bというリズム隊で変化を求めたが、
「あえて替える必要はなかった」と後年達郎氏本人がコメントしている。
そのくらい相性抜群、蜜月の時期だったのだろう。

CBSソニー六本木スタジオ、吉田保氏ミックスといった録音面でも
80年代初頭アナログ・レコーディングの絶頂期を迎え、
このエコー、音の抜け具合も手伝って、 “夏だ!海だ!タツローだ!”
と、人びとはイメージしたのだと思う。

達郎氏が思い描くどんなタイプの楽曲もこなせるリズム・セクション、
レコーディング環境の充実、それから「RIDE ON TIME」ヒットによる制作予算・時間の増大、
さらには30歳を目前にした達郎氏の創作意欲・能力の高まり…。
このアルバム以降聴かれなくなる吉田美奈子さんの詩とコーラス・ワーク。
(詩は次作『MELODIES』に一曲提供したのが最後)
これらが相俟って、この超強力なベストセラー・アルバムは誕生した。
山下達郎さんはある種時代の象徴になった。

それにしても、ホテル・ニュージャパンが焼け、日航機が羽田沖に墜落した前に
このアルバムは発売されていたんだ。
私自身、このアルバムを一枚丸々きちんと聴いたのは
この年のゴールデン・ウィークだったりするので、
冬の寒さの盛りに、夏の海や空を感じさせるこのアルバムが発売されたことが、
ちょっと、というかかなりフシギだ。