ティン・パン・アレーのSIDEWAYS

季節が流れていく。音楽が聴こえてくる。

『パパ・ヘミングウェイ』がわかる大人になりたかった。

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先週の日曜日(1/15)新聞の社会面に小さく載っていた記事によると、
カリブ海の島国バハマで、ヘミングウェイが滞在したことで知られるホテルが
1/13全焼し、当時の写真や遺品も焼失したらしい。

悲しいニュースではあるのだが、少しだけ心は和む。
新聞の社会面は、ここ数年目を背けたくなるような日本国内の悲惨な事件で
溢れかえっているから。

ヘミングウェイは、何冊か読んだ。
80年代の『BRUTUS』『ESQUIRE』『SWITCH』といった雑誌の影響か、
カルチャー・ヒーローとして私の中に位置づいている。
作品そのものも凄いけれど、作家としての生き方も凄い。

というようなことを私が思うということは、他の方も当然そう思われているわけで、
加藤和彦氏などは彼の人生をテーマにしてアルバムを作ってしまった。

『パパ・ヘミングウェイ』と題された1979年の作品。
高橋幸宏(D)、小原礼(B)、大村憲司(G)、坂本龍一(K)といったメンバーで
なんとバハマとマイアミでレコーディングをしてしまうのだから、その凝りようは半端じゃない。

パリを舞台にしたタンゴ「スモール・キャフェ」で幕を開け、
大西洋を渡る船の歌から、ジョージ・タウンへ、そしてバハマへ。
レゲエとテクノが融合した「アラウンド・ザ・ワールド」でクライマックスを迎える
というトータル・アルバム。

水平線に 燃えながら沈む 太陽が
今日を過去にする(「MEMORIES」)

海に人生を教わり 風に歌を習う
いつの日にか 愛から涙を知る(「LAZY GIRL」)

安井かずみさんの詩も「サスガ!」の切れ味。
オシャレで、スノッブで、ディレッタントで、ソフィスティケートされている
(と、自虐的にダサいカタカナ言葉を列挙したくなる)
素晴らしいアルバムだと思う。

ただ聴き手にも、それなりの文化的素養を必要とする作品であり、
このアルバムから続く加藤氏のヨーロッパ三部作、
その評判は80年代初頭には知っていたが当時20歳になるかならないかの
自分では、まだ「聴いてはいけない」「聴いてもわからない」と線を引いていた。

いつか、この世界がきちんと理解できる大人になる。
そのときまで聴くのをとっておこうと思っていた。

しかし、40歳を過ぎても一向にそのような人間になれそうもなかった。
そろそろ潮時と思い、昨年ついに三部作をまとめて買い揃えた次第である。