ティン・パン・アレーのSIDEWAYS

季節が流れていく。音楽が聴こえてくる。

「勝ち組」と安井かずみさん。

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大キライな言葉がある。
「勝ち組」、ここに記すだけでも不快になる言葉だ。
バブル後に経済学者や評論家が言い出したらしい。

勝ち組・負け組」物事を単純に二つに区分する考え方もイヤだし、
「かちぐみ」というサウンド(言葉の響き)も、「喜び組」みたいでタマラナイ。

80年代の渡辺和博氏「マル金」「マルビ」(PCのこのソフトでは○で囲めない)、
90年代のミス・ミナコ・サイトウ「アッパー」「ロウアー」
なら、まだ洒落っ気を感じるのだけれど、経済の世界から生まれた言葉は、
変にマジメな分余計に始末に終えないカンジがする。

ポップ・ミュージックの世界でも、言葉は重要な意味をもつ。
加藤和彦氏の1983年のアルバム「あの頃、マリー・ローランサン」。
このアルバムの全10曲の詩は、故・安井かずみ夫人によるもの。

使われるひとつひとつの言葉が選び抜かれ、
その組み合わせで、誰にも真似できない
研ぎ澄まされた世界がつくり上げられている。
ニューヨークが舞台のアルバムだからか、
まるでアーウィン・ショーの短編小説のようだ。

松本隆さんの物語性も、
松任谷由実さんの洗練度も、
大貫妙子さんの語数の少なさも、
この作品のこの詩の前では霞んでしまう圧倒的な完成度を誇る。

小学校で習ったロシア民謡(ですよね?)「ドナドナ」の訳詞から、
73年ジュリーの大ヒット曲「危険なふたり」まで、
職業作詩家として多彩な曲を書き分けた安井かずみさん。

(生きていらっしゃれば、阿久悠さんに匹敵する評価を得たでしょう)
(六本木にある伝説のイタリアン・レストラン「キャンティ」の料理を、
 ご自宅へ配達してもらえた存在でもあるらしい)

言葉に怒り、言葉に傷ついた日は、言葉に浸り、言葉に癒されたくなる。
そんなとき、聴きたくなる一枚だ。