ティン・パン・アレーのSIDEWAYS

季節が流れていく。音楽が聴こえてくる。

1970年代の万葉集。

tinpan19732006-07-20

処女作にすべてがある?


デビュー直後、雨をどう描いたかで、
アーティストの音楽性が決定される
気がする。


鈴木慶一さんは、そぼ降る雨の日に、
雨の似合う国に旅立った人を見送る
自分を、印象的なメロディーに乗せて
「塀の上で」という曲にした。


細野晴臣さんは、リズミカルな
ギターのカッティングで始まり、
サウンドを意識した言葉が連なる
「相合傘」というキュートな曲をつくった。


この二曲、矢野顕子さんの弾き語りヴァージョンもスバラシイ。


山下達郎さんは、シュガー・ベイブ時代に「雨は手のひらでいっぱい」
というバカラックを思わせる佳曲を発表している。


荒井由実さんは、デビュー・アルバムに
「ベルベット・イースター」「雨の街を」という
個性あふれる楽曲を収めている。


両曲とも、雨という気象現象への
憂うつさだったり麗しさだったりの複雑な感情を、
不思議なコード進行とメロディーで作品化している。

アンビバレントな感情を、アンユージュアルな作品に。
思春期の少女の感受性の鋭さと儚さと危うさがあふれていて、
この二曲を聴くだけでも荒井由実の天才が感じられると思う。


雨。四季のある国で暮らす音楽家たちが、
各々の能力で対象化し、ワン・アンド・オンリーの楽曲にする。


ここに挙げた楽曲群は、“1970年代の万葉集”なのかも知れない。
ティン・パンの歌人たちは、この2006年の梅雨明け前の豪雨を
どんな想いで見つめているのだろう。