ティン・パン・アレーのSIDEWAYS

季節が流れていく。音楽が聴こえてくる。

家に居る。外に出る。

tinpan19732006-07-22

デビューしてすぐ、雨をどう描くかで
音楽性が左右される云々のつづきを。


吉田美奈子さんはデビュー・アルバムで
「ねこ」という曲を歌っている。
猫が耳をなでると雨が降るという言い伝えがある。
だから私は今日、家に居る
という歌。


マグネシウム○○、ダダイズム○○という、カッコイイ名前の
猫と暮らし(ダダが亡くなられたときの鎮魂歌「TRIBUTE」は名曲)、
「RAINY DAY」「RAINY WALK」という佳作を数年後
山下達郎さんとのコラボレーションで作り出す美奈子さんを
実に端的に表現した楽曲だと思う。


吉田美奈子さんは、家に居る。
“(扉を)開けたら、駄目”。
当アルバムのタイトル曲「扉の冬」にも顕著だが、
美奈子さんの今に至る作品に色濃く漂う
内省さ・静謐さを、象徴しているように思う。



荒井由実さんは、外に出て行く。
「ベルベット・イースター」なら、昔ママが好きだったブーツを履いて。
「雨の街を」では、垣根の木戸の鍵を開けて。
これが、後年、ペルーやヒマラヤやパリ・ダカなど辺境を旅して、
リゾートをPOPSの題材としたユーミンの萌芽だ
と短絡的には考えないことにしよう。今日は。


彼女たちの、個性と、感受性と、30年のキャリアは、
そんなにヤワじゃないしカンタンじゃない。


ユーミンのデビュー・アルバムには、「曇り空」という曲もある。
やさしい雨が降ってくるのをボンヤリ見ていたくて、
あの人に会いに行くのを止めて家にいる
という曲である。


雨や曇りの日のほうが、晴れの日よりも歌になり易いのは、
当たり前といえば当たり前か。
味わい深くて趣きがある気候や風景のほうが、
デリケートで揺れ動く心情を託しやすい…。


家にいても、外に出ても、目に見えるものが違うんだ。
感じ方が違うんだ。五感が研ぎ澄まされているんだ。
きっと。この人たちは。


というわけで、次回は、曇り空を受けて、
大貫妙子さん「When I Met The Grey Sky」の話でも。