ティン・パン・アレーのSIDEWAYS

季節が流れていく。音楽が聴こえてくる。

『沖で待つ』を読んだら、「少しだけ…」を聴きたくなった。

tinpan19732006-03-05

芥川賞受賞作は、月刊『文藝春秋』で読むことにしている。
書籍で買うより安いし、審査員の選評も読むことができるから。
毎回必ず読んでいるわけではない。数年前17、18歳の少女が芥川賞直木賞を各々受賞したときなど、『文藝春秋』は購入したものの結局読まなかった。いや、どちらも読みかけたが、数ページから先に進めなかった。
芥川賞は、近年プロモーション的な意味合いが増しているように思う。本を読む人が少なくなって、この人たちにどうやって本を読ませるか?書籍マーケット自体を拡大するため、出版社の方々が頭をひねる。その結果がこの賞であると思うことにしている。
最近は、書店の方々もがんばっていらして、例のベストセラー『世界の中心で愛をさけぶ』は、某書店の販売員の方が店頭に手書きの推薦文を掲げたところから火がついたと聞いている。大手出版社に版元を変えて再発売される際、タイトルを替えるところはサスガ!だと思う(いい意味でも、悪い意味でも)。
旧タイトル『恋するソクラテス』のほうが優れていると、私個人は思う。同じ内容で、タイトルのちがう二冊が店頭に並んでいたら、ゼッタイに私は『恋するソクラテス』を先に手にとる。多くの人は、そうではないのだろう。


さて、今回の受賞作、絲山秋子さん『沖で待つ』。面白かった。
●住宅機器メーカーに同期入社した男女の日々が、淡々と適切なトーンで描かれていた。
●主人公が社会に出た時期は、私が働き出した時期と重なり、この点でも共感できた。
●二人が研修を終え配属されたのが福岡。二年前、出張で私も初めてこの地を訪れ、期間限定なら住みたいと思った。そのくらい好きな土地だった。
過剰なドラマ性よりも、淡々とした日常のちょっと先にある変化が鋭く描かれている点が、最も評価できる点だと思う。あとは、出版社はこれを最大のセールス・ポイントにしているようだが、「恋愛関係にない、同期入社の、男と女のストーリー」。


まあ、確かに小説の世界では斬新なのかも知れないが、ポップ・ミュージックの世界では、決して新しいことではない。
1987年、俵万智さんが『サラダ記念日』で騒がれたとき、ユーミンはバッサリと斬り捨てたものだ。「音楽の世界では、私やみゆき(中島)が昔からやっていたこと。アカデミックな頭の固いオジさんたちには新鮮なのかも知れないけれど」(1987年11月『FM fan』)

吉田美奈子さん2002年『stable』収録の「少しだけ…」では、恋愛関係にないそこそこ年齢を重ねた男女が描かれている。美奈子さんには夕闇さんへのラヴ・ソングもある(「午後の恋人」、これについては別の機会に記したい)。


恋じゃなくて愛。愛には、いろんな愛がある。
小説で、音楽で、映画で…。色恋についてのみの
相変わらずのドラマを押し付けられるよりは幸せなことだ。