ティン・パン・アレーのSIDEWAYS

季節が流れていく。音楽が聴こえてくる。

引算の美学。適度な湿度。

tinpan19732006-03-03

久世光彦さんが亡くなられた。
演出家として、作家として、好きな方だった。
先週末だったか「寺内貫太郎一家」DVD BOXが
出るのを知り、買おうかどうか迷っていた矢先に
こんなことになってしまった。


演出においては、「寺内貫太郎一家」最終回が忘れられない。
梶芽衣子さん扮する寺内家長女の結婚式のシーン。
カメラは、玄関に並んだたくさんの靴と、障子の外から部屋を映すだけ。
実際の宴のシーンは、音声では拾うが映像では映さない。
小津映画にも通じる手法。スバラシイ、グッとくる、引算の美学。


作家としては、「聖なる春」。ちょうど10年ほど前の春に読んだ。
季節や気候に合った音楽を聴くように、小説を読みたいなと思い、
本屋に行って選んだのが、久世さんのこの本だった。
文章は美しく、適度の湿り気があった。乾きすぎず、湿りすぎず、
松本隆さんや松任谷由実さんの詩作にも通じる、適度な湿度。


梅が咲き、桃が咲こうとしている。
桜はまだ最初の開花予想が発表されたばかり。
真っ盛りでなく、かといって名のみの時期でない、
ちょうどいい春を選んで旅立って行かれた。
久世さんらしいな、と思ってお別れすることにしよう。