ティン・パン・アレーのSIDEWAYS

季節が流れていく。音楽が聴こえてくる。

30年が生んだウェル・バランス。

tinpan19732012-01-04

WOWOW松任谷由実コンサート・ツアー2011“ROAD SHOW”を観た。
このツアー、東京国際フォーラムで8月に生で観る機会があったが、
開演に間に合わず、前半終わりごろのラテン・メドレーあたりに着席。
選曲も演出も良くていいコンサートという感想を持ったが、
全体の流れがつかめなかったため、今日の放送を楽しみにしていた。


「映画」「シネマ」をテーマにしたユーミンのアルバム、そしてコンサート。
至極王道的アプローチというか、悪くなるはずがないという印象を
アルバムを聴く前から、コンサートを観る前から、抱いていた。
実際、その通りだった。


「ひとつの恋が終わるとき」「I Love You」「コインの裏側」といった
アルバム収録曲のクオリティの高さ!
これだけの曲を書ける人なんて、今の日本にそういないんじゃないか。
しかし、これが大衆性を獲得するかというと、それはまた別の問題。
ユーミンの楽曲が受け入られる空気というのは、
今の日本にあまり漂っていない気がする。
そんな空気の中でこそ上質のアルバムを発表するのが
このアーティストの素晴らしさで、
『VIVA!6×9』やこの『ROAD SHOW』の完成度・クオリティは、
21世紀の『流線形80』『悲しいほどお天気』だと言えるのではないか。
(ちなみにマイ・フェイバリット・三大ユーミン・アルバムは、
『流線形80』『悲しいほどお天気』に『時のないホテル』)


コンサートはその「ひとつの恋が終わるとき」で幕を開け、
雨を歌った曲がしばらく続き、
太陽あふれる青春の世界、異国情緒あふれるエキゾティックな世界などを描き、
最後はSFと、映画のジャンルのもつ世界観を表現していった。


印象深かったのが、着物姿で歌った「大連慕情」「春よ来い」。
「春よ来い」は、こうしてコンサート中盤でサラリと歌われてこそ
生きる曲なのではないか?と感じた。
年末の紅白の「(みんなの)春よ来い」も、あれはあれで素晴らしい
と思ったが、イントロの武部聡志さんのフレーズは、
CDや今日のWOWOWと同じオーソドックスなフレーズのほうが
相応しいのでは?と思った。


「大連慕情」は、タイトルからしてこのツアーで演るのでは
と思ったらやっぱり演ってくれた「わき役でいいから」とともに、
1981年『水の中のASIAへ』収録曲。
30年前、初めて観たユーミンのコンサート・ツアーが、『水の中のASIAへ』。
この二曲を生で聴いたのは、伊集院静氏演出のこのツアー以来。
ピアノ弾き語りで歌ってくれた「私のフランソワーズ」を生で聴いたのも、
このツアー以来のような気がする。


コンサートのテーマに沿って散りばめられる、過去のアルバムの楽曲。
「この曲を演ってくれるのか!」その選曲の良さが魅力で、
最近またユーミンのコンサートに足を運び出した気がする。


そういった意味では、今日のWOWOW
中盤ラストあたりに実際のライヴでは演奏してくれた「ガールフレンズ」を
カットして放送してくれなかったのは残念だった。
放送の最後に「ひとつの恋〜」のプロモ映像を流すんだったら、
この曲を流してほしかった。


ユーミンとバンドの女性4人がソファーに座り映画鑑賞をするという設定。
座りながら4人が交互にこの曲を歌う。視線は客席を向いている。
三谷幸喜氏がメジャーになる直前のたしか1989年ごろ
深夜ドラマ『やっぱり猫が好き』で、
恩田三姉妹がテレビのこちら側を向かいながら映画を観ている設定で
似たようなシチュエーションを描いていたっけ。
コンサートをひとつのエンターテインメントとするならば、
起承転結の「転」あたりで使うと全体が締まるというか、
幅や奥行が出る手法。そのシーン(楽曲)をカットしてしまうなんて…。


とはいえ、WOWOWは3チャンネルになって、
幅や奥行が出て良かったと思います。
映画、音楽、スポーツがうまくバランスされた気がする。
これがスカパー!まで行くと選択肢が多すぎて選べない。
選ぶ時間がもったいない。


スティング、ボズ・スキャッグスシェリル・クロウにコールドプレイ。
ハービー・ハンコックがオーケストラ編成でガーシュウィンを演奏したライヴ。
私のハードディスクには、この数日間のWOWOWのライヴがいっぱい。


いけない。話が逸れている。
ユーミンのコンサートは、エンディングで「瞳はどしゃ降り」で
映画の世界から現実に戻り、「DESTINY」で本編終了。
アンコールではしばらくコンサートではやらなかった「カンナ8号線」を
歌ってくれた。


新旧の楽曲のバランス、全体の流れ、過剰になり過ぎない演出。
選曲も構成も演出も非常にバランスがとれたコンサートだと思いました。
ユーミンがこうしたスペクタクルなコンサートを始めたのは
「マジカル・パンプキン」(1979年・伊集院静演出)からと言われている。
30年以上に渡る試行錯誤や蓄積が生み出したバランス感なのだろう。