ティン・パン・アレーのSIDEWAYS

季節が流れていく。音楽が聴こえてくる。

最前列の夜。

tinpan19732010-05-24

5/21(金)銀座・ヤマハホール
国府弘子meets吉田美奈子』Liveへ。


19時の開演に遅れないよう、18時半過ぎに会社を出て、
五月の黄昏時のオフィス街を銀座に向かって歩く。
15分ほどで会場へ到着。オンからオフへ、わずか15分。
途中コンビニエンス・ストアで買い求めた水を飲みながら歩き、
しっかり気持ちを切り替えた。


新装なったヤマハ・ビルの上階にヤマハ・ホールはあり、
席数は333席。小じんまりとしながらも、音の響き等上手に計算された
ホールという印象を受けた。


チケットで席を確認する。1階A列○○番!
驚いた! なんと、最前列のほぼ真ん中! 美奈子さんのライヴに
通い出して20年以上経つが、最前列はアルバム『Stable』発売直後の
鶯谷東京キネマ倶楽部以来二度目。
あの時はドラムのポンタ氏の前だったが、今回は美奈子さんの前。
どうしよう…? 一瞬緊張を感じたが、すぐに開き直った。
何十回と美奈子さんLiveに通ったご褒美に神様がこの席をプレゼント
してくれたのだと思うことにした。


それにしても、時間に間に合うよう仕事を調整することに手一杯で、
自分の席がどこなのか?考えることも無かった。
今日に限らず、最近ずっとこんな調子。


ほぼ定刻通り開演。国府弘子スペシャルトリオがまず登場し、
オリジナルを2曲演奏。そして、美奈子さん登場。
「Don't Let Me Be Lonely Tonight」、
ジェイムズ・テイラーのカヴァーでスタート。先日のキャロル・キングとの
来日公演、美奈子さんも聴きに行かれたのだろうか?
続いて「My Favorite Things」。
ミュージカルで有名なスタンダード曲。
私にとってはJR東海「そうだ。京都行こう」CMソングでお馴染み。
昨秋の渡辺香津美さんとのジョイントLiveでもたしか披露してくれた。


次が「Through The Fire」!!!
デヴィッド・フォスター作曲、チャカ・カーンが歌った曲。
たしか80年代、タバコが何かのCMで使われたと思われるこの曲に、
ジ〜ン!というよりガ〜ン! 忘れていた感覚を呼び覚まされた。
そうだ! 1990年ごろ、私は美奈子さんによるチャカ・カーンのカヴァーを
切望していたのだ。特に歌って欲しかったのが「I'm Every Woman」。
こんど、ぜひ披露してくれないだろうか?
バンドLiveのとき、カヴァー・コーナーを定例化してくれたらうれしい。
ホームページを通じてリクエストを募ったりして…。


休憩を挟んで「スカボロー・フェア」で二部が始まり、
続いて美奈子さんオリジナル「Corona」「Precious」「雲の魚」。
この三曲は、国府さんのリクエストだったらしい。


「雲の魚」の前には、何と、この日のために作られたオリジナル曲が
披露された。国府さんが曲を作り、美奈子さんが詩を書いた
「5月の蜃気楼」と題された曲。メロディアスで味わい深い楽曲だった。
ぜひ、レコーディングしてパッケージでも配信でもいいから発売してほしい。
聴きたいときに音を聴く、詩を追う、
最近の吉田美奈子の新曲には、この二つの不可能がずっと続いている。
そろそろ我慢できなくなってきた。


国府さんからのラヴ・コールで実現したという今回のジョイントLive。
ミュージシャンズ・ミュージシャン吉田美奈子の面目躍如というか、
こうした異種カクトウギが似合うアーティストというかヴォーカリスト
と改めて感じた。


この種のコラボレーションを、ビジネスの世界では
Win-Winの関係」、あるいは「掛け算」(「足し算」でなく)と
呼ぶのだろう。この夜の共演が素晴らしかったのは、
そうしたビジネス的な計算でなく、音楽家としての野生から生まれた
コラボレーションであることがLiveの節々から感じられたから…。


そんなことを思いながら、3時間前に来た道を逆に歩く。
銀座そして新橋の街は、一週間の仕事を終えたビジネスマンたちで
賑やかだ。都市の喧騒から静寂や孤独を浮かび上がらせ描き出した傑作が
吉田美奈子作品には多い。
この夜の僕はそう、そうした賑やかな通りを一人歩きながら、
会社に戻り残った仕事を片付けた。
これもひとつのアフター吉田美奈子Liveの在り方と思うことにした。