ティン・パン・アレーのSIDEWAYS

季節が流れていく。音楽が聴こえてくる。

唯一無二と唯一無二との一期一会。

tinpan19732008-11-20

木曜深夜0時を待って、
ボージョレ・ヌーヴォをいただく。


ここ数年、同じタイミングで、同じ店で、同じブランドの
ボージョレ・ヌーヴォを飲んでいる。


0時が近づく。
カウントダウンが始まる。
時刻を確認する電話107の電子音が午前0時を告げる。
バーに集う客たちの拍手の音。
ワインは抜栓され、液体がグラスに注がれる。
たち込めるバナナに似た香り。ボージョレの香りだ。
香りを楽しみ、口に含んでみる。今年の味は…。


甘くない。上質な渋みを感じる。いい味だ。


これまで、あまりボージョレの味が好きではなかった。
ガメイというぶどう種特有の性質なのかも知れないが、
甘ったるくて、味が平坦で深みがない気がした。


でも、今年は違った。
今年の気候が例年に比べてそれほど良かったという話は聞いていない。
ひょっとしたら、飲む自分自身のコンディションもかなり影響しているのかも
知れないと思った。


たとえば今日の気温。昨年のボージョレ解禁日はもっと暖かかったように思う。
湿気もあった気がする。私は何軒か回った後で、この店に来て、
ボージョレをいただいた。
今年は、直前まで用事があり、アルコール摂取0で店に駆けつけた。
外は冬のような寒さだった。


もっと大きなコンディションでいえば、
あの人と別れ、あの人と出会い、あんなことに喜び、あんなことに悲しみ、
年輪を重ねた。


このワインの味が、環境と作り手の志から生まれた唯一無二の今年だけの味なら、
これを飲む私も、環境と自分の意志とで育まれた唯一無二の今年だけの私だ。
そんな唯一無二と唯一無二との一期一会。


この日が、例年以上に、かけがえのないものに思えた。
この日、移動の電車の中で聴いたのは矢野顕子『akiko』。
いつもの作品以上に『唯一無二』感が高まった作品だと思った。