ティン・パン・アレーのSIDEWAYS

季節が流れていく。音楽が聴こえてくる。

どうして川の歌は少ないのだろう?

tinpan19732008-11-03

連休のある朝、多摩川の土手を
川の流れに沿って二子橋から丸子橋まで走った。
この数ヶ月忙しくてあまり走れていない。
久しぶりに走るとすでに寒さを感じる季節になっていた。


橋を渡ると大田区。そこに住むある人に向けて
ある思いを念じた。まだ早い朝の空気は霊気のように
その思いを届けてくれる気がした。


その日の夕方、思いを送った人と、隅田川の水上にバスに乗っていた。
川の流れとは反対に両国橋から桜橋に向かっていた。
東京の西の端と東の端の川を下り上ったある秋の日。
僕はやはり水の側が好きなのだと思った。


海は、歌になり過ぎる。
海をテーマにした歌は、その日隅田川の水面に煌めいて反射していた
光の数に負けないぐらいあるだろう。
それに比べて、川の歌は、遙かに少ないと思う。


♪川は流れる橋の下
まるで二人の恋のように〜
こんなフレーズがふと口をついて出てきた。
たぶん70年代の半ば。五木ひろしさんの歌じゃないか?
タイトルは思い出せない。山上路夫さんか山口洋子さんの詞であろう。
湿っている。比喩やレトリックがありがちというか。思い入れは持てない。


松任谷由実さんや松本隆さんが、80年代、
もっと川の歌を描いてくれればよかったのに。
00年代の今となっては、キリンジの堀込高行さんに期待するしかないか。


吉田美奈子さんの現時点で最新のオリジナル・アルバム
『Spangle』(2006年)のラストから2曲目に収録された曲
CASCADE」。


「滝」「大滝」…。ナイアガラじゃなくてカスケイド。
タイトルから一瞬、大滝詠一さんを歌った曲なのか
と思ったが、ゼンゼンそんなことはなかった。
「深い森の中にある零れ落ちる滝」「日々の泥濘」等、
時間の流れを水の流れにたとえた表現がところどころに登場する、
そんな楽曲だ。かなりドラマチックな曲調で、
バンドLiveのラスト曲で演奏されたことも、私の記憶で少なくとも
二回はある。


♪この想いのある限り〜
という歌の始まりのこのメロディ・ラインが、坂本九さんが歌った
上を向いて歩こう
と同じように私の耳には聞こえてきて、少し面白く少し刹那い。


そういえば吉田美奈子さんの名曲「Liberty」の二番の歌詩にも
♪It’s like a stream at your feet
You never Know till you feel worn out
というフレーズがあった。Stream=小川。


「滝」にせよ「小川」にせよ、
絶対的に流れていく方向があるわけで、
寄せては返す波(このフレーズも美奈子さんの1978年『Let’s Do it』
収録の「海」という曲に使われていましたね)という永遠の反復運動のような
動きの奥で、暖流や寒流といった潮の流れを魅せる海よりも、
川の流れはシンプルだと思う。シンプルさは逆に歌になりにくいのかな。


イムジン河」のように、あるものとあるものを隔てる
境界として描くほうが歌として成立しやすいのかも知れない。