ティン・パン・アレーのSIDEWAYS

季節が流れていく。音楽が聴こえてくる。

時間が交錯した一週間。

tinpan19732008-09-08

私は、広告屋の端くれである。
業界の片隅・端っこ(SIDEWAY)で何とか生きながらえている。


先週の或る日、今年のカンヌ広告祭の受賞作品を見る機会があった。
皆さんご存知のカンヌ映画祭が終わった後に、
その年の全世界の広告から優秀な作品を選ぶ作品が行われているのだ。
ここで賞を獲ることは日本の広告会社にとっても、
とても名誉なことと思われている。
ただ当然といえば当然だが、審査員たちの多くはアングロ・サクソン系であり、
彼らの価値観や生活様式にフィットした作品が賞を獲る傾向がある。


今年は、米国のあるCATV局のキャンペーンが数部門受賞していた。
あるマンションを横からカメラが追い、
それぞれの部屋ではそれぞれの時間が流れ、好みや趣向も多種多様。
このCATV局なら、それぞれの好みに応じた番組を提供できます。
というような内容だったと思う。


映像が流れたのだが、あれはCMだったのか?
それともWebのプロモーション映像だったのか?
よく覚えていないのだが、それを見ながらあるコンサートを思い出した。


松任谷由実1980年のアルバム「時のないホテル」発売直後の
“Brown’s Hotel”ツアー。アルバムのモチーフとなった
ロンドンにある実在するホテル名を冠した伊集院静氏演出による
コンサート・ツアー。


私が初めてユーミンのツアーを目撃したのは、
翌81年の「水の中のASIAへ」ツアーからなので、
このツアーは見ていない。見た人の話を聞いただけなのだが、
非常に内容が工夫された、巧みな演出だったと推測される。


ホテルがテーマということで、エレベーターがセットに組み込まれ、
いくつか部屋があって、その部屋のイメージは歌われる楽曲に応じて
世界観が作られている。
この米国CATV局の映像の「それぞれの部屋にはそれぞれに時間が〜」を
表現しているわけだ。
かと言えば、そこからユーミンが宙吊りになって、
当時の最新シングル「ESPER」を歌ったり…。


前“マジカル・パンプキン”ツアー、その前の“OLIVE”ツアーと、
伊集院静氏演出も3ツアー目ということで、
コラボレーションに磨きがかかった時期のようだ。
記録によると、私の大好きな「埠頭を渡る風」(『流線形80』収録)と
「DESTINY」(『悲しいほどお天気』収録)が、初めてアンコールで
連続演奏されたツアーでもあるらしい。
考えてみれば伊集院静氏も、元・広告屋さん。
CM演出家としてカネボウ等を手がけていらした方だ。


2008年のカンヌの受賞作品を見て、
28年前の実際には見ていないユーミンのコンサート・ツアーを思い出した。


先週は他にも、30年来そして20年来の友人と、
現在私がよく飲み食いする西麻布の店を訪れた。
モントリオール出張で来れなかった友人とメールでやりとりしていると
1976年モントリオール五輪の記憶が呼び覚まされ…。


週の終わりは、その西麻布の一店の10周年記念パーティ。
多くの人が押し寄せ、カウンターだけの店では入りきれず、
隣接するご自宅のお部屋まで開放しての宴となった。
そのお店にとって私は、通うようになってたかだか5〜6年の若輩者。
私より年長で、来店頻度が高く、来店歴が長い方が、
きちんと着席できているか、グラスは空になっていないか、
注意を払いながら時を過ごす。


しかし、そんな努力も虚しく、
店であまりお目にかかったことのない人が、
初めてらしい人を数人連れて来て、ある席をずっと占拠していた。
ちょっと腹が立ったというか、この人たちには礼儀と
時間の感覚が欠落していると思った。


というわけで、
時間に泣き、時間に笑った、
さまざまな時間が交錯した一週間だった。