ティン・パン・アレーのSIDEWAYS

季節が流れていく。音楽が聴こえてくる。

虚像のリアリティ。

tinpan19732008-04-11

ここ数日は、通勤時間が至福の時間だった。
良い音楽と良い本が、私をときめかせてくれた。
ずっと電車に乗っていたかった。


音楽は、昨日記したThousands Birdies’Legs
本は、真山仁『虚像(メディア)の砦』。
『ハゲタカ』の原作者が、テレビ業界を題材に描いた物語。


宗教団体による弁護士殺人事件や、
自衛隊を派遣した中東のあの国での人質事件など、
90年代後半から実際に世の中に起きた事件をモチーフに
話が展開し興味深かった。


「本書は、フィクションである。(中略)
 ただ、読者により親近感を持っていただくために〜」
あとがきも洒落ていた。
現実世界での出来事の暴露ではないが、
実際の時間の流れを大切にしていると記されている。
いや、実際の時間の流れを大切にしているが、
本書で扱っているのは、現実世界の出来事の暴露ではないと
言うべきか。


真山氏は、元新聞記者だそうで、対象への視点が鋭い。
テレビドラマ『ハゲタカ』があれほど話題になったのは、
原作の良さによるところがかなり大きいと思う。
『ハゲタカ』では、外資系ファンドを、銀行を、買収される企業を、
『虚像の砦』では、テレビ局を、政治家を、官僚を、
鋭く見つめ描く。既存のこの種の小説にはない鋭さで…。
鋭いだけじゃない。根幹に愛がある。その愛情の深さが、
読者にとってのありがちじゃない面白さをつくり出していると思う。


社会への視線の鋭さで、松本清張氏を、
対象への視線の優しさで、城山三郎氏を、
彷彿させる。私にとって。
真山氏のような書き手がいる限り、まだニッポンはだいじょうぶ
という気になった。


この作品、メディア業界はある種の自己否定を迫られるわけで、
テレビドラマ化も映画化もむずかしいだろうなぁ。
『ハゲタカ』以上に。