ティン・パン・アレーのSIDEWAYS

季節が流れていく。音楽が聴こえてくる。

空いっぱいの幸せ。

tinpan19732008-03-11

週末、奈良を旅した。
たまたま東大寺のお水取りと重なり、
千二百年以上つづく伝統行事を
遠くから眺めることもできた。


空が広くていいな
と思った。仏像の表情や寺社の佇まいにも
心を奪われたけれど、いちばん感じたのは空の広さ。
法律で規制されているのであろう。
ある高さ以上の建物がないので、視線を上げると、視界が広がる。
大通りの先にも、小さな路地の先にも、必ず空がある。
自分の目の前の風景を二次元のグラフィックと考えても、
一部分に必ず“抜け(=疎)”があるわけで、
疎と密の組み合わせをグラフィック・デザインの基本と考えるなら、
この町の風景は、どれも非常にバランスのとれたデザインであると思った。


私が今住んでいる東京の町も、
そこから徒歩で行ける多摩川沿いのある町も、
空が狭くなってしまった。


雪が降って時間があるとき、よく出掛けた川沿いのビルの最上階のレストラン。
そのビルは取り壊され、今ではその数倍の高さのあるマンションがそびえ、
私たちの視界から“抜け”を奪う。
駅周辺も現在再開発中で、高いビルがいくつも立ち並ぶらしい。


雪が降った日、私が選ぶ家から最寄り駅までのルート、
“抜け”があって空はもちろん、地も一面に近い白い世界が臨める一角が
あったのだが、そこにもこの冬マンションが建っていた。


忙しくて、慌しくて、我を忘れそうなとき、
人は空を見上げて「いい天気だなぁ」と思うだけでも
かなり精神的にリラックスできる。
知り合いの医師がそんなことを言っていた。
手軽なので、よく私は実行させていただいて、効果を実感していた。


空を見上げる自由さえ奪われていくのは悲しいなぁ。
夕陽の赤から紫、青、そして夕闇の黒へと
美しいグラデーションを魅せる大和の国の黄昏を眺めながら、
そんなことを思った。


僕にできることは、iPodキャロル・キング「UP ON THE LOOF」を
聴くことぐらいか。