ティン・パン・アレーのSIDEWAYS

季節が流れていく。音楽が聴こえてくる。

オリーブ・オイル・ミュージック。

tinpan19732008-03-05

昼食は、パスタが食べたくなった。
最近、店頭小売価格が値上がりしたせいか、
あるいは年齢を重ねたせいか、
家でパスタを作って食べる回数は確実に減っているが、
ときどき無性に食べたくなる。


こんなときは、会社から少し離れた某イタリア料理店へ
行くことにしている。ここのパスタが私のお気に入りである。
季節を反映して、「ツナと春キャベツのスパゲティ」を選んだ。
久々だったので前菜とデザート付きのコースにした。
通りを見下ろせる二階の席で、料理を食べ始める。
窓の向こうの景色は、春めいてきている。光がきらめいている。


♪♪♪〜
幾重にも重なるストリングスの音が、頭の中で鳴り始める。
大貫妙子「ベジタブル」のイントロ。
そうだよ。春だからね。1985年・資生堂・春のキャンペーン・テーマ。
イタリアのカンツォーネっぽいというのだろうか。
メジャー・コードの軽快なポップ・チューン。しかし、
単純なハ長調ソング、短絡なC調ポップスに聴こえないのは、
大貫さんの曲はもちろん、坂本龍一さんの編曲によるところが大きいと思う。


細野晴臣さんは1975年『TROPICAL DANDY』のころ、
自らの音楽を“ソイ・ソース・ミュージック”と称されていたけれど、
大貫妙子さんのこの1985年ごろの音楽は、
“オリーブ・オイル・ミュージック”だと今私は思う。


ヨーロッパ路線を始められた1980年『Romantique』のころは、
モスクワやキエフも歌詞に登場し、エリアの広いヨーロッパだったけれど、
この路線を展開していくにつれ、ヨーロッパ・ラテンが最もしっくりくると
ご本人やスタッフの方々が認識されたのではないだろうか。


ヨーロッパ・ラテン…。
国でいうと主にフランス、スペイン、イタリアに住む人びと。
地中海に面するエリアに住み、オリーブ・オイルが生活に身近な人びと。


1982年『クリシェ』はパリ録音もあり、
バターこってりの音に大貫さんの声のエキゾティズムが新鮮だった。
83年『シニフェ』の「シ・エスタ」等でスペインを感じ、
84年『カイエ』の「ラ・ストラーダ」(=「道」、フェリーニみたいだ!)
85年『コパン』の「シエナ」「ベジタブル」等で思い切りイタリアを感じた。
オリーブ油の音楽だと思った。


「レゲエやサルサが、ココナッツ油やヤシ油の音楽であるように、
 ボクの音楽は醤油(ソイ・ソース)の音楽だ!」
と1975年当時、細野晴臣さんが何かに記されていたはず。
大貫さんの80年代半ばの音楽は、オリーブ油の音楽だと思う。
それは、“教授”=坂本龍一さんとの約10年のコラボレーションの
ひとつの到達点と言えるのではないだろうか。


その後、90年代前半の小林武史さんとのコラボレーションには、
“べに花油”(この頃、食用油会社がしきりにCMしていたと思う)。
2000年に入ってからの森俊之さんとのコラボレーションには、
エコナ・クッキング・オイル」のような“カラダにやさしいこだわり油”を
感じる。ドメスティックに感じるのが、ちょっと悲しい。


80年代後半から始まり現在も続くピュア・アコースティック路線は、
“ノン・オイル”なドレッシングというか、
油を使わない西洋料理を感じます。