記憶が霞になる。
今朝目覚めたら、春だった。
春は突然やってくる。
寒い日々の中膨らむ桜の蕾とか、
スーパーに並ぶ菜の花とか、
寒中の中に微かに春の予感を感じるのは、
それはそれで趣きがあるけれど、
到来するのは、毎年、ある日突然だと思う。
朝、目覚める。うん? あたたかい…。
エアコンのスイッチを入れることなく、起きられる。
昨日までの寒い日々がウソのようだ。
春って超ド級のポジティブ・シンキングというか、
昨日までの寒さ? 知りません。目の前にあるのはあたたかい未来だけです!
ってカンジで、厳しかった昨日までをあっという間にただの過去にする。
目覚めて身支度を整え、昨日か一昨日にタクシーの中に忘れた
マフラーを取りに行く。幸いにも家からそう遠くない。
多摩川からちょっと入ったところにタクシー会社はあった。
無事マフラーを受け取って歩き出すと、多摩川の土手が本当にすぐ目の前。
せっかくだから川を見て帰ろうと、土手の方向に歩く。
土手に上ると、目の前に多摩川が広がる。
しみじみ眺めるのは久しぶりだ。
テニス・コートがあって、さまざまなグループがプレイに興じていた。
天気が良くて、何より暖かくて、キモチよさそうだった。
♪♪♪〜
キリンジ「ニュータウン」をiPodで聴く。
休日の晴れた日中、なぜかテニスをしている人を見ると、
脳内のこのイントロが流れだすのはなぜだろう?
昨秋ここにも記したけれど某大学構内を
紅葉を見ながらウォーキングしたときも、
テニスコート近くでこの曲を聴いたっけ。
詞をじっくり追っていないけれど、きっとそんなしみじみした
歌じゃないはずだ。歌の中では雨もたしか降ってくるはず。
まして大学は目黒区、多摩川は世田谷区
なわけで、決してニュータウンじゃない。
この楽曲のサウンドから感じる世界が、休日・晴れ・住宅地に
マッチするのだと思う。私の中で。
次に聴いたのが、松任谷由実「川景色」。
四半世紀前(になってしまった)、1983年のちょうどこの時期発売された
アルバム『REINCARNATION』収録曲。
私は大学一年生、この多摩堤通りを走りながら、何度かこの曲を聴いた
ことを思い出したのだ。
この「川景色」、ユーミンのこのバージョンはセルフ・カバーで、
もともとは石川セリさんへの提供曲だったはず。
80年代前半、ユーミンのFM番組にセリさんがゲスト出演されて、
この曲について、「海をみんな歌にしたがる時代だから、
あえて川の歌を作りたかった」とユーミンが話されていたっけ。
セリさんのご実家が、相模川や寒川神社の近くらしく、
その昔、ユーミンが八王子から相模線に乗ってセリさん宅に遊びに行った
エピソードも話されていたような…(記憶が少々曖昧です)。
70年代前半、ラジオ番組(たぶんオール・ナイト・ニッポン)で、
吉田拓郎、井上陽水、石川セリ、荒井由実が共演する機会があって、
「収録後皆仲良くなり飲んだりしているうち
グループ交際みたいな感じになって、陽水×セリはそのままゴール・イン、
そうなると私は拓郎だったけれど、その時もう美代ちゃん
(浅田美代子さん、しばらくして結婚、後離婚)とつきあっていた…」
というような話もされていたような…。
うん、川は記憶を呼び覚ます。いや、春の霞がかった風景というのは、
それまでの記憶が蜃気楼のように漂って出来上がる風景なのかも知れない。
それは、きっと、昨日までの寒さを、無かったことのように
過去へ追いやってしまったことへのエクスキューズなのだろう。