ティン・パン・アレーのSIDEWAYS

季節が流れていく。音楽が聴こえてくる。

器の春。

tinpan19732008-02-10

水曜日、仕事で六本木ヒルズに行った。
折角だからと思い、終わってから森美術館へ。開催中の
「アートは心のためにある:UBSアートコレクションより」を観る。


つい先日、私が所有するあるクレジット・カードを提示すると、
入館料が無料になることを知った。半信半疑だったが、その旨を
受付で伝えると、ほんとうにタダだった。
うれしかったけれどちょっとショック。今までいくら払っただろう。


私は、美術展はエネルギー浴だと思っている。
森林浴で木々のフィトンチッドを浴びるように、
アーティストたちが作り出した作品を実際に間近で見ることで、
その“気”を浴びて自分の毎日に生かすというか…。


ウォーホールリキテンスタインから荒木経惟まで。
名だたるアートのエナジーを体全体で感じながら館内を歩く。
今回、いちばん印象に残った作品は、
マイケル・クレイグ=マーティン。
ひと昔前の雑誌『メンズ・クラブ』でくろすとしゆき氏が
よく描かれていたワードローブ解説のイラストのようなタッチで、
靴や服を描いていた。ピクトグラムのような絵、原色の鮮やかな色づかい。
外の、雪が舞い始めた六本木界隈の風景のモノトーンとは対照的だった。


平日、水曜日、正午、雪…。
これなら空いているに違いない。
このまま新国立美術館まで歩いて、横山大観展を観てしまおうかと思った。
しかし、今日中にやらなければならない仕事量を考えて会社に戻った。


金曜日、慌しい一週間を何とか乗り切り、知人宅へ。
今回は、日本酒を飲み比べようという集い。
お酒や料理の味自体とても美味しかったけれど、
もうひとつ感じたのが器やグラスの素晴らしさ…。
UBSコレクションに展示されそうな絵が配された器に盛られた
わさび菜は、無性にアーティスティックな味がした。


そういえば前日の木曜日、いつも寄らせていただいているバーで、
つまみを取るのに出された小皿が、桜が散りばめられたデザインで、
それに、なぜか、とても、心を動かされた。


例年になく寒い日がつづいている。今年は雪もよく降っている。
しかし、そんな日々でも確実に春は近づいて来ていて、
来たるべき季節の予兆を、その小皿に感じたのだ。
短歌とか俳句ができれば、この思いを歌にできるのになと思った。


それから着物。着物のデザインは、季節をちょっと先取りするのが
望ましいそうで。その先取り感が大切らしい。
早すぎてもダメで、遅すぎるのは言語道断。
麻とか紗とか、素材や織り方の1年間の有効期限も
事細かに決められているようで、
ちょっと前だとそれは面倒臭く大時代的に感じたけれど、
今はその繊細さがニッポンなのだと思い始めた。


マイケル・クレイグ=マーティンの色づかいに、
バーの小皿の模様に、春を感じた一週間。
皆さん、寒い日が続きますがお体ご自愛ください。