ティン・パン・アレーのSIDEWAYS

季節が流れていく。音楽が聴こえてくる。

お天道様とプレシャス・ロード。

tinpan19732007-12-19

年末になったせいだろうか。
ゴスペルが聴きたくなり、
昨夜家に帰ってマヘリア・ジャクソンを
ターン・テーブルに乗せる。


聴きながら本を読む。宮部みゆき『日暮らし』。
深川、王子等の地名が出てくる。江戸時代の城東地区の物語。
日曜日、城東地区・上野へオペラ『隅田川』を観に行く
電車の中で読み出した。
ゴスペルと江戸文化、意外とミス・マッチを感じないのはなぜか。


80年代の終わり、友人が渋谷のバブティスト教会で結婚式を挙げた。
最後にジェームス・ブラウンのようなルックス(!)の
太ったゴスペル・シンガーが登場して、ギターを片手に歌った。
♪Precious Lord〜
ウマかった。味があった。雰囲気に合っていた。


Bluesyな曲も良かった。と同時に、どこかで聴いたことがあるな
と思った。それから、しばらくして、思い出した。
知人の事務所で打ち合わせ中に、吉田美奈子『MINAKO Ⅱ』を流してくれた。
このライヴ・アルバムは、この時点でCD化されていたが、
私はカセット音源でしか持っていなかった。そしてあまり聴いていなかった。
(美奈子さんの歌も、楽曲のアレンジも、
 バックの凄いミュージシャンたちの演奏も、何故か心に迫ってこないのだ)
この時は、終盤近くのある部分で、耳が反応した。


♪Precious Lord〜
1975年だから23歳ぐらいか。若かりし山下達郎さんと大貫妙子さんと
吉田美奈子さんが、アカペラでこのフレーズを口ずさむ。
「そうか。この曲か!」
タイトルを改めてチェックする。
「Precious Lord, Take My Hand」というらしい。
「?」
そうしているうちに、曲は最後まで歌われることなく
キャロル・キング「YOU’VE GOT A FRIEND」に変わってしまう。
メドレーなんだ。こういった構成が、発売当時評論家にウケが良くなく、
またご本人にも好まれないアルバムである理由なのかも知れない。


「Precious Lord, Take My Hand」、タイトルを知り
折を見ていろいろ調べた。時間がかかった。
当時インターネットがあればどんなにラクだったか。


ゴスペルではスタンダードな曲らしい。
アレサ・フランクリンに有名なゴスペル・アルバムがあるから、
それに入っているのではと思ったが入っていなかった。


何年か経って、マヘリア・ジャクションの二枚組アルバムに
収録されていることを知った。迷わず購入した。
初めて聴いたとき、心が震えた。
圧倒された。スゴイ!と思った。
と同時に、相容れない気持ち、拒絶されている感覚も味わった。


やはりChristianでなくては、
ゴスペル・ミュージックの真髄は理解できないと思った。
お天道様を崇め、寺社仏閣に詣でる私たちに見合うゴスペルは、
別のところに在ると思った。


民間信仰、現在のPOPカルチャーの源流である江戸町人文化、
その辺りの要素がつまった宮部みゆき『日暮らし』と
マヘリア・ジャクションのゴスペル・アルバムが違和感ないのは、
“名も無き民の心の拠り所”にどちらも立脚しているからかも知れない。