東方ろまん。
上野の東京文化会館へ
松本隆×千住明 新作オペラ
「隅田川」を観に行く。
オペラといっても演奏会形式で、
オーケストラが客席正面に並びソリストがその前に立ち歌う。
第一部では頼近美津子さんを司会に、
松本隆氏と千住明氏のプレトークが行われた。
「隅田川」自体は、世阿弥の長男・観世元雅の能楽作品で、
この物語を題材に松本氏が台本を、千住氏が音楽を担当し、
新たなオペラ作品として世に送り出されたもの。
この公演の開催を知ったのは、朝日新聞の夕刊だった。
90年代を過ぎたあたりから、松本さんの活動領域が、
クラシックや日本の伝統芸能の方へ広がっているのは知っていた。
機会があればその活動に触れてみたいと思っていたので、
この公演はちょうどいいタイミングだった。
今日のトークで、新聞記者に
「オペラと言うと、多くの人はちょっと引く。
さらに能となると、かなり引いてしまう」
と言われたと語っていらしたが、私はこの手の既成のジャンルを
クロス・オーバーした表現、既存の価値の順列・組み合わせに挑んだ作品
には興味が沸く。闘志が湧くと言ったほうがいいかも知れない。
ただ、「松本隆×能×オペラ」には違和感がないが、
「松本隆×上野×隅田川」という組み合わせには少々とまどいを覚えていた。
まず、「上野」についてだが、
松本氏は僕にとってはやはり“風街詩人”。
渋谷・青山・麻布を線で囲み、そこを“風街”とした松本氏と、
“上野発の夜行列車〜”“ああ上野駅”“アメ横”のイメージが強い
城東地区・上野とがちょっとミス・マッチに感じた。
いや、東京文化会館がある上野公園口の方向は、
美術館や東京芸大さらには寛永寺もありいい雰囲気なんだよな
と向かう電車の中で考えていた。
次に「隅田川」ですが、これは考え違いをしていました。
プレトークで松本氏が話され、ナルホドと思いました。
この能作品が書かれたのは室町期(だったはず)。
日本の中心は京都で、江戸はまだまだ東の地方都市。
隅田川を渡ると、もう「みちのく(道の奥)」という感覚だったらしい。
この世とあの世の境の三途の川、そんなイメージも重ね
描かれた物語のようだ。
“恋人よ僕は旅立つ 東へと向かう列車で”は「木綿のハンカチーフ」だが、
この「隅田川」はさらわれた子を探して母親が京都から東へ
武蔵国の隅田川へやってくる。
あの時代、浅草も上野も、ただ葦が生い茂っているだけの地だったらしい。
オーケストラの音が良かった。
昨日の矢野顕子Live同様、私の席は中央付近。いい音で楽しめた。
3列前の少し右に、松本氏が座っていらした。
今日はダーク・グレーっぽいスーツにネクタイ姿。
こんな姿を拝見するのは、メディアやサイトを含めて初めてだ。
今、「言葉について」「書くことについて」
ちょっと考えていることがあって、それが上手く行くように、
後姿にそっと手を合わせた。