ティン・パン・アレーのSIDEWAYS

季節が流れていく。音楽が聴こえてくる。

オンリーワンのオンタイム。

tinpan19732007-11-06

東京は今週も雨の日が多そうで、
たしか週後半には立冬を迎えるはず。
この作品について記さないうちに
季節が過ぎてしまいそうなので、
今日の天気には合わないけれど、
今日はこのアルバムについて書いてみます。


中秋の晴れた日中に聴きたいアルバム。
先日ジョニ・ミッチェルの新譜について記したときに、
この作品についても思い浮かび、それからこの秋、
何度かiPodでプレイした。


ローラ・ニーロ『walk the dog & light the light』。
邦題『抱擁〜犬の散歩はお願いね、そして明かりはつけておいて』が
あまりに長く、原題のほうが韻も踏んでいてキモチいいので、
当文中では原題表記で統一します。
(といいつつタイトルを表記することはこれ以降ありませんでした)


1993年の秋の始め。
僕がこの部屋に引っ越して来た頃発売となり、
「えっ! あのローラー・ニーロの新譜?」
と驚きと歓びを感じて買い求めた作品だ。
当時でたしか10年ぶりぐらいの新作だった。


一曲目の最初から軽快だった。
音が、どこか、同年の春に出たドナルド・フェイゲン
やはり久々の新作『カマキリ・アド』に似ている
と思ってライナー・ノーツを見たら、それも然りだった。
スタジオが同じ、エンジニアが同じ、
参加ミュージシャンもかなり重複している。


『ニューヨーク・テンダベリー』の頃に顕著に感じられた
デリケートすぎるほどの個性は影を潜め、
ナチュラルな母性をアルバムから感じた。
聴いていてこちらもリラックスできた。


初めて聴いたのが、休日の昼間。
今これを書いているこの部屋だったと思う。
天気のいい日曜日、僕は当時、ある雑誌のあるコーナーに雑文を書く
仕事を本業とは別に始め、その初めての仕事の締切日前日だったはず。


ローラ・ニーロ=「夜」「内省」「ある種の重々しさ」「繊細すぎる感受性」
という、僕が吉田美奈子さんに感じるものと同様の観念を、
この作品は覆してくれた。秋の乾燥した晴天がやけに似合う作品だった。


窓を開け放して、このアルバムをプレイヤーから流しながら、
仕事をした。初めての締め切りをそれほど意識することなく
乗り越えられたのは、この作品のおかげだったのかも知れない。
それ以降、時々思い出しては、秋の晴れた日に聴いている。


それから4年後の1997年4月8日、
吉田美奈子さんのお誕生日のたしか翌日、
ローラは50年にもわずかに満たない生涯を終えた。
インターネットのニュースでそれを知った。
結果的に私にとって唯一の、
オンタイムで聴いたローラ作品となってしまった。