ティン・パン・アレーのSIDEWAYS

季節が流れていく。音楽が聴こえてくる。

YumingとMinakoの、マグリット。

tinpan19732007-06-26

松任谷由実、1981年のアルバム
『昨晩お会いしましょう』。
ピンク・フロイド等のジャケット・デザインで
おなじみのヒプノシスが、アート・ワークを手掛けた。


アイルランドでロケをしたらしい。
ユーミンとおぼしき女性(実際は本人ではない)と、
男性が、乾いた大地で向かい合っていて、
女と男の周囲だけ雨が降っている。
このジャケットでタイトルの意味を十分に表現している。
『昨晩お会いしましょう』は、オペラのタイトルからの引用らしいが、
収録曲も、一曲目の「タワー・サイド・メモりー」から
「カンナ8号線」など、ユーミンお得意の“過去進行形”の
歌詞のオン・パレード。『昨晩お会いしましょう』的楽曲が並んでいる。


MacもCGも一般的でなかった時代、
ヒプノシスの画像合成技術は世界に名だたるものだったと思う。
後年、マグリットの絵を見たときに、
「あ、ヒプノシスっぽい」と思った。
(時代的には、マグリットのほうがゼンゼン昔ですけどね)


ルネ・マグリットのシュール・レアリスティックな絵。
鳥が大空を飛んでいて、鳥のシルエットの中だけ青空だったり、
部屋の扉の向こうが、いきなり別天地だったり、
その発想の飛躍ぶりが、キモチよかった。


その発想が、とても広告的だと思った。
ビジュアルを考えるときに役立ったし、マグリットの画集をながめながら、
ひとつひとつの絵に言葉をぶつけるコピー練習などもした。


そうしているうちに、この絵は、
吉田美奈子さんの詩と同じだ!”と思った。


たとえば、
「LOVE SPACE」(1977年山下達郎『SPACY』収録)の
コズミックな飛翔感。
LOVEの昂揚感は、この街を夜空とひとつにする。
僕たちを宇宙まで連れ去ってしまう。


「言えなかった言葉を」(同じく『SPACY』収録)の想念の彷徨。
夜、君は眠っている。誰もいない街。
暗闇で、雲は見えない。ビルも見えない。
ただ、僕の、言葉に出せない思いだけが、
その不自由さとは裏腹に、静寂の中に漂っている。


思いや、想いが、飛翔し、彷徨っているんだ。
「この歌詞、意味がわかんない」
そういう人に、僕はマグリットの画集を見せて、
「この絵みたいなものなんだよ。吉田美奈子の歌詩は」
と言ったことがある。


ストーリーや意味に縛られずに、
イメージが自由自在に拡散する。
山下達郎さんの旋律に乗った、
吉田美奈子さんの言葉の連なりを、その響きを、
ぜひ、もう一度、新たに味わってみたいものだ。