十月と五月は似ている。
大貫妙子『A Slice of Life』も
五月に似合うアルバムだ。
発売は1987年10月で、
ずっと秋の爽やかな空が似合うアルバムだったが、
ある時期から5月が似合うようになった。
あれは、2001年だったろうか?
21世紀になってから記憶が曖昧で
自分の中でクロニクルが整理できず
ひょっとしたら2002年なのかも知れない。
が、2000年12月Tin Panコンサートからそれほど
時間が経っていなかったはずだから、2001年で正しいと思う。
5月にBunkamuraオーチャード・ホールで、
大貫妙子さんのコンサートがあった。
久しぶりのバンド編成。しかも、林立夫&沼澤尚のツイン・ドラム、
佐橋佳幸ギターで、新進気鋭(私にとって)のキーボディスト森俊之も参加
という願ってもいない顔ぶれで、有無を云わず駆けつけた。
全くうるさくなく、大貫さんの声をジャマすることなく寄り添うツイン・ドラム。
抑制の効いたバンド・サウンドという印象だった。
「次のアルバムは、ニッポンの、この素敵なミュージシャンたちと作りたい」
と大貫さんはMCで語り、次作『note』は事実そうなった。
このコンサートのアンコールで「人魚と水夫」を歌ってくれた。
それまで『A Slice of Life』というアルバムの三曲目という存在でしかなかった曲が、
このLive以来五月を象徴する楽曲になった。
それくらい新鮮に聴こえた。演奏も良かった。
十月と五月は、気候が似ている。
気温も、そして湿度も。
異なるのは、その先に控える季節が、夏なのか、秋なのかということ。
発売時期と「あなたに似た人」「もういちどトゥイスト」といった
冒頭2曲に顕著な“ロスト・サマー=過ぎ去った夏”のイメージが
アルバム全体を覆っていたけれど、
この2002年5月のLive以降、
“アップカミング・サマー=夏が来る”を感じるアルバムになった。
「人魚と水夫」「木立の中の日々」など、
この時期に聞くとヒジョーに気持ちいい楽曲である。