ティン・パン・アレーのSIDEWAYS

季節が流れていく。音楽が聴こえてくる。

春は、足元からやって来る。

tinpan19732007-03-13

環七と環八の間にある
小じんまりとした私鉄の駅で乗り換えて、
通勤している。


たまに、この駅で途中下車する。
駅の近くにハンバーガー・ショップがあって、
何てことはないチェーン店なのだが、
月に一度くらいここに立ち寄って朝食を食べたりすることが
気分転換になったりする。


この店は造りがちょっと変わっていて、
1Fに当たる部分が半地下というか1/4地下みたいな構造だ。
1Fのテーブルに座り、窓の外に視線を向けると、
道行く人の足元、いや膝の辺りが目の高さに来る。
見上げないと顔は見えない。
トリュフォーだったかヒッチコックだったかの映画で、
こんなアングルの映像を見た気がする。


春は、女性の足元からやって来る。


♪春が来た 春が来た どこに来た
 山に来た 里に来た 野にも来た
街に来る春は、女性の足元からのような気がする。
立春が過ぎて、春一番が吹いて、三寒四温を繰り返して、
ある日街に生温い風が吹く。気温が上がる。


通りを歩く女性たちの足元が、
ブーツからパンプスに変わる。
その日が、“都市の立春” だと思う。
あるビデオカメラの広告の仕事をしたときに、
そんなことを感じた。


山下達郎さんに「あしおと」という曲がある。
1983年のアルバム『MELODIES』収録。
長いこと、私はこの曲を自分勝手に解釈していた。


半地下の喫茶店で働く青年。
黄昏どきになると、毎日近くの会社で働く女性が
仕事を終えて通りがかる。
顔は見えない。足元から腰のあたりのラインまでだ。
でも、その様子がとにかく美しい。


しみじみ歌詞を追ってみると、違うんですね。
「いつもの通りを笑いながら近づいてくる」等の記述があるから
当然顔は見えているんですね。


などということを考えながら、ソーセージ・エッグ・マフィンを食べる。
ミルクを飲む。ヨーグルトを食べる。コーヒーも飲む。
iPodからは「あしあと」が流れている。
まだブーツを履いた女性が圧倒的に多い、ある三月の朝。