ティン・パン・アレーのSIDEWAYS

季節が流れていく。音楽が聴こえてくる。

たそがれを描く、二つのライジング・サン。

tinpan19732006-10-25

10月はたそがれの国で、
ブラッドベリの小説の話は
近日中にするとして。


今日は、「たそがれ」を
ここまで美しく描けるのか
というアルバムと楽曲の話。
それから二つの才能の話。


吉田美奈子、1977年のアルバム『Twilight Zone』。
山下達郎氏との共同プロデュースによる4thアルバム。
現在に至る美奈子さんの路線が確立した作品といえる。


美奈子&達郎、76年「ラスト・ステップ」から始まったと云われ、
後にゴフィン&キングとも、マン&ウィルとも称されるに至った黄金コンビ。
若さと才気が漲る、昇り行く朝日のようなお二方のコラボレーションが、
早くもたわわな実りを付けた。そんな印象。


ホーム・セクションを前面に打ち出して、
当時のポップスでは珍しかったモード奏法がみられたりしたためか、
この頃美奈子さんはご本人の意思とは無関係に
ジャズ・シンガー”と呼ばれたりしたらしい。


この数年後は“ファンクの女王”と呼ばれるわけで、
ポップスの定型では収まりきらない、美奈子さんの自在なる音楽の振幅に、
業界も、評論家も、いや売ろうとするレコード会社さえも、
着いて行くのが精一杯だったんじゃないだろうか?


ただ、とにかく、この『Twilight Zone』はスバラシイ!
アルバムのトータリティは申し分ないし、
美奈子さんのピアノと歌を、リズム・セクションやホーンやストリングスが
取り囲む、スタジオ・ライヴ形式で録音している。
(ある意味、デビュー作『扉の冬』方式Againである)


その緊張感が出ている気がする。
アルバム最後を飾る楽曲の「Twilight Zone」なんて、
細野晴臣氏のガット・ギターがカッコ良くて、
(宇宙のどこかの星の民族楽器が地球に入ってきたとして、
 短時間で最も味わい深く演奏してしまう地球人のような気がする。
 細野さんは…)
向井滋春氏のトロンボーンとかホーン・セクションも絶妙。


延々と続くエンディングのインスト部分など、
フュージョン・ブーム前夜、1977年の名うての音楽家たちの
競演がスリリングで、このままフェイド・アウトすることなく永遠に続け!
と思ってしまう。


初CD化が1989年の今ぐらいの時期。
すぐに購入して、10月が来ると必ず聴く作品である。