ティン・パン・アレーのSIDEWAYS

季節が流れていく。音楽が聴こえてくる。

秋風とキャロル・キング。

tinpan19732006-09-26

歌う細野さん→ジェイムス・テイラー
で思い出したわけじゃないけれど…。


80年代最後の年の9月、
当時まだ15日に固定されていた
敬老の日前後で連休となり、
友人たちと千葉の館山に行った。


スペイン風の白亜のリゾート・ホテルが
できたとのことで泊まり込み、
プールで泳いだり、海でバーベキューをしたりして過ごした。
当時私は26歳、社会人3年目。会社は早くも3社目、
世間的にそこそこ知名度のある企業で営業社員として働いていた。


たった2泊だったと思うが、仕事のしがらみから離れ
学生のときのような気持ちで学生のようなことをして過ごし、
かなりリフレッシュできたことを思い出す。


帰る日、それまでの2日間とは打って変わり、雲が広がった。
すぐにでも雨が落ちてきそうな天気。
僕たちは、帰る支度をしていた。FMが流れていたのだと思う。
キャロル・キング特集だった。
馴染みの曲が次々と聴こえて来た。


♪Old north wind begins to blow〜
夏の終わり。曇った空。海から吹く、涼しい秋の風。
You’ve got a friend ”のこのフレーズが、無性に切なく響いた。


キャロル・キング、いいな。CD買おうかな」。
そんな話を友人としたと思う。当時、CDプレーヤーが普及価格に
入ったころで、僕たちはレコードやカセットで持っていた音源を、
CDで買い直さなければならない時期だった。物入りだった。


おまけに社会に出て数年、給料はたかが知れている。
その連休も、ちょっとお洒落なリゾート・ホテル滞在で
カネを使いまくった。財布に札が無くなり、
キャッシングするため、帰京途中、たしか木更津だったと思う。
イトーヨーカドーに立ち寄ることにした。


この頃、銀行キャッシュ・ディスペンサーは土曜2時まで。
日祝日は稼動せず。コンビニ・バンキングはまだ無く、
おカネをおろし忘れてキャッシングなんてことは日常茶飯事。
後ろめたさを全く感じることなく、
レコード屋あるだろうからキャロル・キングのCD買おうか」
などと言いながら、ヨーカドーに向かった。


そこで見た風景が…。
すごかった。キョーレツだった。
連休最終日、郊外のショッピング・センター。たくさんの人・人。
子供を連れた夫婦がクルマに乗って、これでもかと押し寄せる。
大きな買い物袋、赤ん坊の泣き声、焼きそばやタコ焼きの匂い…。
僕の相容れない、生活が、世間が、社会が、そこにあった。
絶対的に、圧倒的に、断固として存在していた。
地中海風リゾートから一気に現実に引き戻された。


「CD、買わなくていいの?」
「うん、いい。ここで買ったらめったに聴かなくなりそうだから」


キャロル・キングは後日、渋谷タワー・レコードで買い求めた。
以来、風に秋を感じる頃、ずっと聴き続けている。
しかし、どうやら、あの時拒絶した世間とは、
いまだ折り合いがついていないようだ。