ティン・パン・アレーのSIDEWAYS

季節が流れていく。音楽が聴こえてくる。

アルバム一枚聴きながら眠れる幸福。

tinpan19732006-08-22

1990年の午睡ミュージックをもうひとつ。
大貫妙子『NEW MOON』。本格的な夏直前の
6月、私にとって待ちに待ったリリースだった。


前作『PURISSIMA』(88年)が、サントリー・ホールで
行われたピュア・アコースティック・コンサートの好評を
受け、その路線でアルバム一枚制作したもの。
これはこれで好きだけれど、純粋なオリジナル・アルバム
とはちょっと違う企画ものという気がする。


なので、私の中では87年『Slice of Life』以来、約3年ぶりの
オリジナルという位置付け。おまけに87年ごろ、大貫さんは
“コンピュータ拒否宣言”をして、『Slice of Life』は4リズムを、
『PURISSIMA』では管や弦に重きを置いたサウンドだった。


90年ごろ、ようやくコンピュータの音が許せるようになったのだろう。
ひと肌の温かみを感じるサウンドを聴くことができる。
一曲一曲がヴァラエティに富んでいて、一音一音が吟味されている印象。


コンピュータ機器の進化、デジタル・レコーディングの進展により、
この頃からプリ・プロ(Pre-Production)作業が本格化する。
大貫さんは、このプリ・プロを、葉山のご自宅でもなさったらしい。
息抜きに葉山の海を訪れ、皆でキムチ鍋を作って食べたそうだ。
そのようなことが御著『散文散歩』(「月刊カドカワ」連載エッセーを
単行本化したもの)に書かれている。


1曲目「泳ぐ人」(タイトルは映画からの引用だと思う)は、
イントロからホーンが高らかに響く夏・海の歌。
2曲目「Call My Heart」のハードな曲調も、小気味いい。
このようにアルバム一枚トータルで楽しめる。


夏の海やプール・サイドで聴いていると、だいたい
5曲目「風の吹く街〜Hello New Days」 (Bassは何と細野晴臣氏!)か
8曲目「水の上の一日」で眠りに落ちる。
両曲ともミディアム・テンポが快い佳作。こんな曲を聴きながら、
午睡をとれる幸福をかみしめたいものだ。


先日取り上げた『BEAUTY』に『NEW MOON』、
90年のこのアルバム以降、夏の海やプールでアルバム1枚まるごと楽しめる
作品が無くなった気がする。
オムニバスのテープやMDに、好きな曲を好きな順番に録音して
聴くことが多くなった。


CDというメディアの影響か(AB面が無く、アルバムのトータリティの意味が変化した)?
それとも本格的に働くようになって、音楽に接する時間が減ったから?
海やプールに行く絶対数が減ったから?
いろんな理由の足し算なんだろう。きっと。