ティン・パン・アレーのSIDEWAYS

季節が流れていく。音楽が聴こえてくる。

“寒い夏”にならないように、「寒い夏」について書く。

tinpan19732006-08-02

今日の最高気温は何℃だったのだろう?
梅雨が明けたというのに、
今ひとつ夏の感情に浸れない。


1977年、79年、93年、あと2003年かな。
パッと思いつく冷夏は。
太陽は元気なく、雨が多くて、
気候は寒く、気持も塞ぐ
イヤな夏だった。


「寒い夏」という楽曲がある。
1988年山下達郎『僕の中の少年』収録。
作詞・竹内まりや、作曲・山下達郎
16歳の頃に出会ったと思われる、
共に暮らした女性が部屋を出て行った夏。
喪失感と孤独感、気持と気候が、
言葉少なに綴られている。言葉巧みに描かれている。


エンディングの英詞
“Life is meaningless if you’re not here with me”
が、この楽曲のテーマを端的に表現しているように感じる。


竹内まりやさんは、ライフ・サイズの作詞家だと思う。
等身大というか、いつも自分がそこに居るような詞を描く。
そして、それが、とても味わい深い。
デビュー作のエンディング「すてきなヒットソング」は、
何の奇も衒わず自らのポップス体験を綴った歌のように聴こえるし、
二作目の「涙のワンサイデッド・ラヴ」にも私小説を感じる。
独身最後の五作目「リンダ」「Natalie」と明らかに外国女性を描いた
歌にも、まりやさんの存在を感じてしまう。


極めつけが、この五作目収録の「僕の街へ」。
イーグルスジャクソン・ブラウンが歌いそうな、
(と本人によるライナーノーツに記されている)
都市生活に別れを告げてホームタウンに帰って行く
男が主人公の歌だけれど、まりやさんご自身の留学体験や、
学生時代にL.A〜イリノイを旅行されたときに感じられた
さまざまな思いが込められた作品のような気がする。
大好きな曲だ。


そんな身の丈の味のある楽曲が少なくなった。
(たぶん、私の年齢も関係あるのだと思う)
90年代に入って「キャリア・ウーマン」という言葉が登場する
歌詞はどうかと思ったし、「ソウル・メイト」という言葉も、
当時の私には何故か虚しく響くだけ、どんどん遠い存在になっていった。


「寒い夏」。ひょっとしたら、私にとってのまりやさんを歌った曲か?
(そういえば、出会ったのは16歳だった)
いや、そうじゃなくて、「二人のバカンス」のような、気分に浸りたいんだよ。
夏はお暑く。恋はお熱く。が、やっぱりイイと思う。