ティン・パン・アレーのSIDEWAYS

季節が流れていく。音楽が聴こえてくる。

「わたしたち」と上司の靴。

tinpan19732006-07-04

矢野顕子さんを聴き出したのは、
そんなに昔からではない。


他のティン・パン系の方々だと
四半世紀聴いていたりするが、
矢野さんの場合まだ20年に満たない。


YMOの第一回ワールド・ツアーに同行して注目されたことや、
81年春カネボウCM「春咲小紅」は知っていたが、
“ニッポンのおっかさん”的世界があまり好きじゃなかった。
周囲の音楽好きな友人には評価が高かったが、
「ごはんができたよ」「ラーメンたべたい」等に感じる生活臭に
80年代前半を大学生として過ごした私は、抵抗があった。
家族愛より色恋のほうが興味があった。


1987年のちょうど今ごろ。
4月に社会人になり、早くも私は1つめの会社である出版社を辞め、
某著名プランナーの丁稚奉公のようなことを始めた。


ある観光地のホテルの再開発を手がけるため3名で下見に行った。
ビジネス・ホテルやシティ・ホテルとは異なり、当然3人相部屋。
私はいちばん下っ端。誰に言われるでもなく、朝、仕事に出かける前は、
先輩方の靴を磨いた。


部屋のテレビから、西武百貨店のお中元のCMが流れてきた。
♪長い時間も短かすぎるわたしたち〜
♪小さな言葉があれば〜
キャッチーで印象的なメロディーだった。
一聴して矢野顕子さんだとわかった。
この出張中、何度もこのCMを聴く機会があった。


それから3ヶ月ほどして、
矢野顕子さんのNEWアルバム『GRANOLA』が発売になった。


1曲目は「わたしたち」、この西武百貨店のCMソングだった。
いい曲だと思った。
2曲目は「風をあつめて」。はつぴぃえんど(はっぴいえんど
ヴァージョンをまだ聴いていなかった。この時が、この曲との出会いだった。
このアルバムを最後に矢野さんはプチ・リタイヤする。
(お子様が思春期に入られたのが理由だったはず)
(2年たたずに『WELCOME BACK』で復活してヨカッタ)
ある種それまでのキャリアの集大成的内容だったと思う。


いちばん好きな矢野さんのアルバムは?と言われれば、
この『GRANOLA』を挙げると思う。
19年前に磨いた上司のイタリア製の靴とともに思い出す。