ティン・パン・アレーのSIDEWAYS

季節が流れていく。音楽が聴こえてくる。

忘れかけてた季節に、忘れかけてた楽曲を聴く。

tinpan19732006-03-15

このアルバムも…、30年。
30周年にかこつけて、前日の『泰安洋行』のように、今まで書きづらかったり書きたいことがありすぎて二の足を踏んでいたものを、書きまくってしまおうと思う。
吉田美奈子さん『FLAPPER』、これが『ナイアガラ・トライアングルVol.1』の4日後、1976年3月25日に発売された(そうである)。
先日記したリリィ「オレンジ村から春へ」(76年春・資生堂キャンペーン・テーマ)や、荒井由実さん「翳りゆく部屋」は、リアル・タイムだった。けれど、『ナイアガラ・トライアングルVol.1』で八面六臂の活躍をしたキーボーディスト坂本龍一氏が、リリィのこの曲でも編曲&演奏していることや(確証はないけれど)、同じキャラメル・ママをバックにデビューしたユーミンのブレイクの後を受けて、村井邦彦氏が大々的にこのアルバムで美奈子さんを売り出そうとしたことなど(というかユーミンのアルファ離脱がほぼ決まりかけていたのだと思う)、さすがに中学に入る直前の私には知る由もなかった。
『FLAPPER』は、“J-ROCKの名盤”とか“J-POPの元祖”とか後年呼ばれたアルバムである。“J-***”という言葉はスキじゃない。いかにもバブル後の、不景気〜もつ鍋〜デフレ〜下層の匂いがする。でも、そういう言葉で評価されるほど名盤なのだろう。
ソロ・デビュー前の矢野顕子さんが詩・曲提供していたり、細野さん「ラムはお好き?」と大滝さん「夢で逢えたら」がトロピカル路線vsスペクター路線で全面対決していたり、佐藤博さんの作曲・編曲が光っていたり、「ラスト・ステップ」「永遠に」で美奈子―達郎の黄金コンビが始まったり、とにかく作家陣がゴージャス。演奏陣もティン・パン系と関西ブルース系(村上D、高水B、松木G、佐藤K…松木氏は関西系ではないと思うが便宜上)を楽曲によって使い分けるという、とにかくクレジットを追うだけでもため息が出てしまう。
考えてみれば、美奈子さんは、ここ2作、ほぼ30年の時を経て、この『FLAPPER』方式に戻っているのだ。80年『MONOCHROME』以降は、作詩・作曲・編曲までほぼ本人が手掛けたセルフ・プロデュース・アルバムが続いていたが、この『REVELATION』『spangles』、は、他の音楽家からの曲提供を受けている。但し、詩だけはすべて本人の手による。
ソング・ライターとしてよりもシンガーに今比重を置かれている時期なのだろう。それはそれでファンとしてうれしく思う。


このアルバムについては語りたいことは色々あるけれど、季節的な理由もあり、この楽曲についてに絞りたい。
「忘れかけてた季節へ」。アルバム8曲目に位置する、ご本人作詩・作曲によるナンバー。
♪いつの間にか 風は 淡色の香 運び〜
♪街路樹の枯葉 今は 消え去って
「扉の冬」から3年、『MINAKO』『MINAKOⅡ』それからこの『FLAPPER』の他曲では封印しつつあった美奈子さんの(今につながる)内省さ・繊細さが、絶妙に表現された楽曲だと思う。寒かった今年の冬が暦の上だけでもようやく春になった2/4 Pied Piper Dayから帰る電車の中で、数年ぶりにこの曲を聴いて、「なんていい曲なんだろう」としばし感慨に耽ってしまった。