ティン・パン・アレーのSIDEWAYS

季節が流れていく。音楽が聴こえてくる。

言葉はメロディーを持っている。

tinpan19732006-03-01

いや、何がイヤって、あの「メ〜ル」という発音。
昨夜のニュース番組、例の記者会見があったせいか、各局とも「メ〜ル」「メ〜ル」のオン・パレード。別の記者会見である荒川選手の帰国会見が見たくて、サッカーの合間や終了後にニュース番組をザッピングしたのだが、ことごとく、この「メ〜ル」というサウンドに遭遇してしまった。
「めえる」と表記したほうがピッタリくるような独特のイントネーション。仲間内や仕事内で使う口語としてならまあ許せるとしても、公共の電波で発すべき言葉ではないと思うのだが…。


言葉は、人の口から発せられた瞬間、それはもう立派なサウンドになる。
日本語のロックを確立したと云われるはっぴいえんどの、作詩を手掛けられていた松本隆氏は、「今の音楽の言葉の乗せ方のほとんどを、はっぴいえんどは実験した」という主旨の発言をなさっていた。


山下達郎氏の1980年のアルバム『RIDE ON TIME』。先行して発売された同名シングルが、日立マクセル・カセットテープCMソングに使用され、達郎氏ご本人のCM出演等の効果もあり、初のベストテン・ヒット。満を持してのアルバム発売となった。
このアルバムの1曲目が「SOMEDAY」、2曲目は「DAYDREAM」という曲。いずれの曲も、サビで、曲のタイトルである「SOMEDAY」「DAYDREAM」という言葉が何度かリフレインする。
作詩をなさった吉田美奈子さんによると、この両曲のデモ・テープを聴いたとき、「うわ〜、また2音だ。どうしよう」と思われたそうだ。たしかに、サビのいちばん盛り上がる部分が、「サム・デイ」「デイ・ドリーム」の2音。この音に乗る日本語はなかなか無いため、英語を探したというエピソードを読んだことがある(「きれいな歌に会いにいく」長谷川博一著より)。
言葉はそれ自体が音を有していて、私たちに読まれた時点で音を発する。言葉を、音に乗せていく行為というのは、さぞや骨の折れる作業なのだろう。
この「DAYDREAM」という曲、アクリル絵の具のカラー・チャートを吉田美奈子さんが持って来て、そこから色の名前を引っ張ってきて、音に乗せていったらしい。
グラスグリーン、ショックピング、ペールブルー、ココブラウン、ダークオレンジ…。
まさに“溢れ出る色の渦 巻き込むパレード DAYDREAM!”見事なクリエイティブである。
「こういう詩は、美奈子以外書けない」と、達郎氏もファンクラブ会報で、数年前の再発盤のライナーノーツで発言なさっていた。

そういえば、最近の美奈子さんのアルバムには、“カレシ”という言葉を少女たちが発するイントネーションそのままに詩に乗せたファンク・ナンバーがあったな。