ティン・パン・アレーのSIDEWAYS

季節が流れていく。音楽が聴こえてくる。

リリィと教授とフレッシュジュース。

tinpan19732006-02-27

化粧品会社の春のCMソングを、引越し直前に連続して取り上げた。
今日は私にとっての真打ちにご登場願おう。リリィ「オレンジ村から春へ」、資生堂1976年春のテーマ。キャッチ・コピーは「恋のミルキーオレンジ」だったと思う。
同時期のカネボウ「ギンザ・レッド・ウィ・ウィ」はフランスのデイブ(?)というシンガーが歌っていたはず。中学入学前の春休み、この2作のシングル・レコードを買って愛聴した記憶がある。
それから、13年くらい経って、坂本龍一氏の著作『SELDOM ILLEGAL〜時には違法〜』を読んだとき、はっきりとは明記されていないのだが、ピ〜ンと来た。
この「オレンジ村から春へ」のバッキング(アレンジ含め)、教授の仕事なんだ(間違っていたら申し訳ない。でも、ゼッタイそうだと思う)。
友部正人氏と新宿ゴールデン街の飲み屋で隣り合わせ、翌日のレコーディングに参加したのがデビューと云われる教授。ただのヒッピーのピアノ弾きと思われたが、プレイヤーとしてはもちろんアレンジャーとしても類稀なる能力を発揮して、評判に評判を呼び、やがて当時最もギャラの良かったリリィからお声がかかる。マネーがあるところに優秀な人材は集うのは経済の必然!というわけで、このリリィのバイバイ・セッション・バンド、メンツが凄い。
ドラムがリリィの夫君であられた西氏、ベースは吉田健氏、ギターは伊藤銀次氏、そしてキーボードが教授。「ペイも良くて、音楽的にも好きなことやれた」というようなことが、『SELDOM ILLEGAL〜時には違法〜』に書かれていたと思う。
ちょっとカントリーっぽくて、ちょっとニュー・オーリンズっぽい、そんなサウンドが聴かれる。メロディーは、化粧品会社のキャンペーンに使われるくらいだから、めちゃポップ。80年頭には、この曲「ポンキッキーズ」で使われたりもしていた。
このシングルが発売された1976年の春は、シュガー・ベイブ解散コンサートが荻窪ロフトで行われ、『ナイアガラ・トライアングルVol.1』が発売された時期でもある(シュガー解散コンサートの最後、伊藤銀次坂本龍一両氏が加わり、「幸せにさよなら」を演奏したらしい!)。
教授がポップスに正面から向き合っていた時期というか、Prophet 5とかのシンセじゃないキーボードを弾く教授に、希少で貴重な価値を感じる。
資生堂のCMで使われた音源をコンパイルした『音椿』という編集盤が出ていて、この「オレンジ村から春へ」は1曲目に収録されている。“さすが!資生堂”と思いつつも、ひとつザンネンなのは、この1年前の春CM「彼女はフレッシュジュース」のテーマ曲が収録されていないこと。これもリリィの作品で、曲名は「想春期」か「春想期」だったと思う。ちょっと調べてみたのが、わからない。たぶん今音源は廃盤状態だ(曲名と音源の有無、ご存知の方教えてください)。
この「彼女はフレッシュジュース」というキャッチフレーズ、小野田隆雄氏のコピーだが、この年のコピーライティングの賞を受賞している。広告的にヒジョーに価値のあるものなので、音源もぜひ聴けるようにしていただきたいものだ。