ティン・パン・アレーのSIDEWAYS

季節が流れていく。音楽が聴こえてくる。

酷暑の「ジ〜ン」。

tinpan19732007-08-19

残暑というより酷暑、炎暑、
そんな言葉が似合う日々が続いていますが、
皆さんいかがお過ごしでしょうか。


私は5日ほど東京を離れておりました。
出掛けにバタついて、iPodの充電器を忘れるという失態。
聞こえてくる音といえば、蝉時雨と高校野球の実況中継。
そんな日々を過ごしました。
代わりに、といっては何ですが、
本を結構読みましたので、今日はそんなお話でも。


「アサッテの人」諏訪哲史著。第137回芥川賞受賞作。
この休みにこの作品を読むのを楽しみに、月刊文藝春秋を購入しました。
(単行本を買うより安く、おまけに選評まで読める)


読後の感想は…、「う〜ん」…。
風変わりな叔父さんのことが描かれるというので、
ちょっとジャック・タチ「ぼくの叔父さん」をイメージしたり、
また僕自身も“叔父さん”なので親しみを感じていたのだが、
正直イマイチだった。


読む前に、私がこの作品に対して創り上げたイメージが
どうやら“アサッテ”だったようだ。


村上龍氏の選評を読んで、少し気持ちが楽になる。
「わたしは推さなかった。退屈な小説だったからだ。
 さまざまな意匠で飾られ彩られているが、装飾を引き剥がすと
 『コミュニケーション不全』と『生きにくさ』だけが露わになる」


小説も、音楽も、映画も、読み聴き観た後に
「う〜ん」より「ジ〜ン」を感じたいものだ。
僕は「ジ〜ン」を感じたくて、映画や音楽や小説に接し、
ひょっとしたら「ジ〜ン」を届けたくて、
仕事や会社を選び変えてきたのかも知れない
と、最近思うようになった。


続いて読んだのが桐野夏生著「残虐記」。
こちらは、どんどんページがめくれ、あっという間に読了。
この著者のパワーには、ただただ圧倒されます。


「グロテスク」「ダーク」あたりから負のパワーが全開で、
ちょっとツライというようなことを以前このblogで書いた覚えがあるが、
いや、もう、ここまで来ると、揺るぎない個性といいますか…、
実際に起きた事件を、事実よりリアルに描いてしまう気がします。


たとえば、「グロテスク」では東電OL事件、
この「残虐記」では、たしか90年代始め新潟で起きた
男性が少女を9年間なり自宅に監禁していた事件を彷彿させる。


あの事件の当事者たちは、こんなことを考え感じていたに違いない。
読者にそう思わせてしまう、著者の想像力に脱帽。
感動したり涙が出たりとは明らかに異なるけれど、
特別な環境の中で人間は何を思いどう行動するかを
リアルに感じさせてくれるという点で、
これもひとつの「ジ〜ン」である。僕にとって。